Eテレ「SWITCHインタビュー達人たち 遊川和彦×黒木瞳」を観て。やはり“根っこ”は必要・・。
こんにちわ、SUMIKICHIです。
たまに観るEテレ「SWITCHインタビュー達人たち」。今回は、女優・黒木瞳さんと脚本家・遊川和彦さん。去年から今年にかけ映画監督デビューを果たしたという共通点を持つお二人。
最近、映画「恋妻家宮本」の宣伝で遊川和彦さんをお見かけしますが、実は、この方があの番組の脚本を書いてらっしゃったのね、とあまり存じ上げてなかったのです。衝撃的で今でも好きな「女王の教室」をはじめ「家政婦のミタ」「曲げられない女」「魔女の条件」、そして原作もので大ヒットした「GTO」など、リアルタイムで観ていたその頃は、あまり脚本家を意識しておりませんでしたので。
番組を観て、この脚本家もそうだったのね、と思った点がありましたので、ざっくり綴っておきましょ。
遊川和彦さん、61歳。
高校生のとき、学際で芝居の脚本を書き好評を得たのをきっかけにドラマ制作の仕事に興味を持つ。やがて、制作会社に入りADの仕事をこなし、早く上に行こうと思っていた。もともとは演出家や監督志望。このスタジオ現場で王様になるにはどうしたらよいか、一人で考えた。ふと、まわりを見渡し気づいた。モニターの中の芝居を見ていて、その芝居をどうするかを必死で考えればいい、他に考えている奴はいないと。スケジュールや段取りを考える奴はいるけど、「俺が考えた(例えば)黒木瞳の芝居とは違う」と考える人はいない、それを自分がやればいいと。
そうするとディレクターを無視して演出をし出す、とか、勝手に脚本を直すようになる。生意気で、社長と衝突し辞めてやる!と出て行った。止める仲間はひとりもいなかった。このとき31歳、脚本家の道を歩き始めた。
“当時、茫然と赤坂の街を歩いたことはよく覚えている。収入のために仕事しているよりは、自分がしたいことをして何とか生きる方がいい、お金は大変かもしれないけどお金では買えない幸せが絶対ある。後悔してない、愛おしく思える”
その後、AD時代に担当していた番組「うちの子にかぎって・・」SP版の脚本家に抜擢される。初稿は面白くないってスタッフに言われて、手直ししたら劇的に面白くなった。「脚本家は実は、直しが上手い奴が大事、柔軟に直せるんだな、俺はって思った。連ドラやるのも直しが苦じゃないからやるのかな」と遊川さんは言う。
脚本家となって11年、初めて原作のあるドラマ「GTO」の脚本を書くことに。これが大きな転機となる。平均視聴率28%を超える大ヒット。しかし、その裏で大きな壁にぶつかっていた。
“やらないつもりだったけど、原作読んだら面白かったし、原作があるから楽だなって思って書いたら「原作のままですね」と言われた。あっ、そうなんだ、ドラマ的に広げていかなきゃいけないんだ、と思ったときに・・・俺はこの主人公のことをよくわかっていないことに気づいた。もう書けないと思った。一話撮ってるときに、二話が出来てない状態。連ドラとしては壊滅的。今までストーリーテラーとしての脚本を書いてきた。脚本はキャラクターを掘り下げないと物語が作れない、主人公の中に入って自分で考えないといけない。そうした時に書けるんですね”
ここで黒木さんが鋭い問いかけを。面白くないって言ってくれたプロデューサーが良かったんですね、と。人って否定された時にどうするかって話ですよね、と遊川さんも頷く。
“それからは、トラブル地獄に突っ込んでいくのが苦にならなくなった。お互い「こっちが面白いと思う」っていう対立で、ぶつかってケミストリー(化学反応)で新しいものが生まれればいい。収拾つかなくなったらプロデューサーに決めてもらう”
“そんなに平和な現場ってない。ウソっぽいし何も残らない。スケジュール通り終わって、役者さんが機嫌よく帰っていく、あー良かった、だけ。だけど、ああして欲しかったというのが残るだけ。その方がよっぽど問題。新しいものを生み出す共同作業が出来た時の喜び・スクラム感が一番大事”
黒木さんも、ウソつきたくないからホントのこと言っちゃう、誤解される時もあるけど、と言う。
遊川さんは、脚本家の立場でも頻繁に撮影現場に訪れる。面白いドラマを作る難しさを誰よりも知るからこそ、トラブルを気にせず厳しく注文をつける。
“いい芝居を見るのも幸せだけど、いい芝居をしようともがいてる人を見るのもいい。ひたむきにやっている姿は好き、そういう人とは失敗したっていい、またやろうと思う”
黒木さんが言うには、いい芝居をしようと思っていい芝居はできない、その時の集中力や想像力による、いい芝居をしようと思ったら理性的な芝居になるらしい。
そんなお二人の共通点がもうひとつ、‘芝居が好き’。ここでまた誤解を招きそうな現場の裏話。
“ ‘芝居好きじゃない人’が現場に結構いることが驚き。‘ドラマが好きな人’か‘ドラマを作ってる自分が好きな人’。7割がそう。こいつら全部崖から突き落としてやりたい、邪魔なんですよ”
“SNSで酷評されることについては、わかってもらえない寂しさは感じるけど、現実を受け止めないとこっちの負けなので、批判的な人たちにも、次は納得できるものを書こうと。もと少年隊の東山さんも同様なこと言ってましたけど、叩かれれば叩かれるほどファイトが湧くって”
そんな遊川さんのストレス解消法は、読書や映画鑑賞。驚きなのは、カラオケで嵐の曲を歌う(踊る?)こと。
今後の夢は、‘恋妻家’になること(映画の宣伝じゃん)。ちなみに、‘愛妻家’は、俺は愛してやってるぜみたいな自慢みたいな感じ。そうではなくて、日常において「あっ、今、この奥さん好きだな(または、好きになったな)」みたいな瞬間の積み重ねが大切だということから‘恋妻家’という造語が映画のタイトルに。
私の記憶に残る好きなドラマを書いていた方なのですが、思い描いていた人物像とは真逆な感じでございます。どちらかというと、多くを語らず神秘的な男性を想像(私の願望?)してましたのに、こんなパワフルな落ち着きのない(失礼!)方だったとは。
制作現場のお話を聞いていると、もと職場での苦い思い出が蘇りました。スタッフとの衝突を出来るだけ避けようと神経をすり減らしていた若かりし頃の日々。本当は遊川さんのように果敢に自分が信じる面白いコトを主張できるタイプ(私には無理かな)だったら、もっと違うモノが出来ていたのかなぁと反省・・って今更ですので、懐かしむだけにしておきましょう。それに、よくよく思い出すと、自分では一歩も百歩も引いてたつもりでも、たまーにスタッフの口から「また○○さん(私のこと)ワールドだよ」ってお決まりの単語がため息まじりに吐き出されてましたね。ふふっ、おもしろーい。
そうそう、最近観た番組で、脚本家の倉本さんが‘登場人物の履歴書がドラマの根っこ’だと語っていらっしゃったので、当たり前のことかもしれませんが、やっぱりそうなんでしょうね。
蛇足ですが、黒木瞳さんは強い女性ですね、周囲にどう思われようとかまわない、どんな人間か決めつけられたくない、そんな発言にちょっぴり驚きでございました。
日々感謝です。